第十話 パラダイス

kazurateiutubo2009-05-23



 一日中、日の差す事がない、うす暗い台所。
じっとり湿った空気は重く沈み、そよとも動かない。
周りを見渡せば、青や黒、灰色の美しいカビ畑だ。


 なんて素敵なんだ。まさにここはパラダイスだ。
プールは付いてるし、食事は豪華でたべ放題。
しかもデザートまで付いている。
天国に一番近い島というのがあると、どこかで聞いたが、
ひょっとしたらここの事かも知れない。
そう思いたいくらいイケテル部屋だ。
贅沢をいえばメードさんが居れば嬉しいのだが。


 プールに目をやればカーナが泳いでいる。
もうかれこれ5時間は泳いでる筈だ。
一日一万メートルが目標らしく、体を鍛えるのに余念がない。
ひょっとしたらオリンピックに本気で出るつもりかも知れない。
「そんなに泳いでオリンピックにでも出るの?」
「さあ、どうしたものかな。オレはカーナだからな、北島じゃない」
何の事やら分からない言い訳をして、反対側に泳いで行った。


 男はといえば、朝から晩まで畳に寝転んでテレビを見ている。
何もやる事がなのだろう。
時々、怯えたように外に視線を向ける。外といっても窓を開けたら
すぐブロック塀なのだが。


台所から何気なくテレビを眺めると、元気な若い男達が歌い踊っていた。


何なんだろう、何かが頭の中で小さく弾けた。