ピサの斜人
朝目が覚めて、顔を洗う。
微妙な違和感が腰にある。どうしたのだろう?
昨日は何事も無かったのだが。
食事を終え、歯を磨き、口を漱ぐ。
違和感は痛みに近い物になっていた。
しかし、なんだか今までと違う感覚だ。
鏡を見てみると、不思議な格好に体が歪んでいた。
そのままの格好で数日が経った。
朝目覚めると、何やら頭の上が騒がしい。
いつの間にか階段ができ、沢山の人たちが俺の体を
登っていく。
しかも、てっぺんには展望台が出来て、有料の望遠鏡まで
備えられている。
「桜島が見える!」
「ぼくんちがあんなに小さい」
「倒れそう」
皆が叫ぶので、そのにぎやかな事。
あんまり楽しそうだったので自分で登ってみることにした。
天辺に着くと倒れそうな足元に気分が悪くなってきた。
転落しそうになるのを必死に支えながら、
やっとの事で地面に降り立った。
翌日、あまりの恐怖から、俺の体はさらに斜めに傾ぎ、
今じゃ、つっかえ棒がなければ立っていられない。
近所の人たちからは「ピサの斜人」と呼ばれている。
勿論、立ち入り禁止になっている。